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マンションの上下階の音に関するトラブル判例その2・・・・ 執拗な苦情申し立ては名誉棄損であると認められた事例
それでは、前回ご紹介させていただきました音に関するトラブル判例の続きをご紹介いたします。
今回は上階の入居者の執拗な苦情に対して、名誉棄損を申し立てた結果、
一部認められ階下の入居者に慰謝料を命じた事案です。
事案の概要
階下の住人をXとし、階上の住人をYとします。
Xは5年前からYのほぼ真下に位置する部屋に居住していた。
Yは3年前に部屋うちの床を木製のフローリングにする工事を行った。
(この当時は管理規約に特段の制限はない)・・1
その後、管理規約に基づく使用規則が定められて、フローリング工事は1階のみと定められた。
それからYは規約に基づいて、キッチンの改装、浴室・洗面等の改装を行った。
(この時はフローリングの工事は一切していない。)・・2
その工事完了後から、XはYに対して騒音に困惑している旨の手紙を出した。
それに対して、即時にYはフローリングにカーペットを敷き音に対して注意して生活している旨を
手紙で説明したが、Xは納得せず、管理人を通じて苦情を申し立て、定期総会で議題にあげた。
その後、音響設計会社による調査の結果、マンションの構造上で遮音性能に問題があるとは認められず、
Yに対して衝撃吸収性のマットを敷くことを提案した。
その後もXは管理人を通じて苦情を申し立て、それに対して、管理組合は勧告書を発し、
管理組合の臨時総会の議題にとりあげ、音に関しての対処を行うように勧告書を発した。
判決の要旨
①名誉棄損の成否
Xが管理組合や管理会社の面前で発言した内容は、他の住民に対して、YがXに被害を与えているという
印象を与えるものであり、Yの社会的評価を低下させるものである。
②名誉棄損の有無
XがYに対して管理人を通じ、申し立てした苦情には、Yに対する誹謗中傷とも受け取れる表現が多く含まれ、
それらの苦情が非常に多く申し立てられたことを考慮すると、Xの苦情は社会通念上許される限度を超え、
Yの名誉を侵害するものであったと考えられる。
③違法性阻却事由の有無
苦情が出され始めたのは上記の2以降であり、その主張が1に起因するとは推認することができない。
しかもYが不在時でもXは数回管理人を通じて苦情を申し立てており、Yが発生させたものとするのは想定しがたい。
仮に、Yの2の工事について提出した書類に不備があったとしても、
Xの発言や苦情の内容が、客観的事実に基づくものであるとは認めがたいことを考慮するとXの行為が正当とは言い難い。
④Yの損害額等について
Yは加害者であるという印象を与えられ、名誉棄損、そして多数回にわたる苦情の申し立てにより、名誉感情を
侵害されたものであって、精神的苦痛を被ったと認められる。
その他、諸般の事情を総合的に考慮すれば、Yが被った精神的苦痛を慰謝する慰謝料は、
Xそれぞれについて30万円が相当であり、これと因果する弁護士費用としてはそれぞれ3万円が相当である。
しかし、Yの名誉回復のための謝罪文をX及び管理組合の理事長に交付する必要性があるとは認められない。
⑤受忍限度を超える騒音の発生有無
Yが2の改修工事において受忍限度を超える騒音を発生させた証拠はないし、その後、様々な騒音を発生
させている事実は認められない。
音に関してのトラブルは杓子定規の考え方では難しく、条例で定めた測定値や客観的な数値等が判断材料と
されていますが、このような判例をもとに、そしてモラルの中で考えてほしいものです。