Column
コラム
建物の耐震強度に不満を感じ、退去した賃借人に対して行った損害賠償請求
この判例は平成22年7月30日の判決によるもので、現在の社会情勢を鑑みると
賃貸人の改修の努力義務が加重される可能性があることを留めて頂きたい。
さて、今回の事案は、建築当時の耐震性能(当時の建築基準法に則った)が
現行の建築基準法上の耐震性能を有しなければならないのか。それが争点でした。
事案の概要
賃貸人をX、賃借人をYとします。
建物は昭和43年築、平成4年には大規模修繕、XとYの賃貸借契約は法定更新されていた。
平成18年頃にYは建物の耐震性能に不安を抱き、Xに調査依頼をしたが、消極的であったのでXの許可をとり、
Yが調査を行った。その結果、「耐震性能が低く、補強が必要」
その結果をもとに、Xに居ながらの補強工事を依頼したが受け入れられなかったため、Yは解約手続きを行った。
Yは平成20年11月24日に事務所を引き払い、期日である平成20年11月30日には明け渡した。
しかし、契約書記載の原状回復については行わず、Xの訴訟により平成21年4月に原状回復し、同年6月3日に
鍵を返還した。
Xの訴訟は契約書に基づく明け渡し及び賃料相当損害金である。
その訴訟に対してYは明け渡しは平成20年11月30日に明け渡したものとして保証金の返還を求めた。
判決の要旨
本件建物の耐震性能が現在の建築基準法において求められる水準に比べて低いことは認められる。
しかし、本件建物はその建築当時の建築基準法令に従って建築されているものというべきであり、
かつ現時点において要求される建築基準法上の耐震性能を有している必要はない。(既存不適格住宅)
さらに、耐震改修法6条は特定建築物の所有者に対して、耐震診断を行う努力義務を定めているにすぎず、
仮に改正にかかる耐震基準を契約締結時にあったとしても、それが直ちに修繕義務の根拠にはならない。
Xには耐震改修を行うべき努力義務はあるが、判断はXがするものであり、Yが権限を有するものではない。
よって、改修工事を行わなかったからといって原状回復が免除されるものでもなく、
明け渡しは鍵の返却の6月3日とし、平成20年12月1日から平成21年6月3日までの賃料及び
共益費相当損害金を支払う義務をYは負うものとする。
耐震改修促進法の規定は努力義務であり、既存不適格建築物において修繕義務を負わない。とあるが、
冒頭にも記載しましたが、現今の災害などの情勢を鑑みると貸主の努力義務だけでは...。
耐震改修法6条の特定建築物・・・
共同住宅・下宿・事務所は3階以上で(延床面積が1000㎡以上とされてます。