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事業用賃貸借物件における瑕疵担保責任・・・ 事業収益減少、信用毀損の程度がポイントに!
賃貸不動産で心理的瑕疵としてあげられるのは、その敷地、居室内で自殺者や事件が発生していた場合や、
居室が相当期間にわたって性風俗特殊営業に使用されていた場合、近隣に反社会的勢力等の事務所が存在
する場合など、居住用物件では使用継続に嫌悪感、不安感等があれば心理的瑕疵が認められる傾向にありました。それでは、そんな心理的瑕疵は事業用物件でも認められるのでしょうか。
今回は、東京地裁平成27年9月1日判例で事業用賃貸借物件の瑕疵担保責任についての事例をご紹介します。
事案の概要ですが、
借主は不動産会社の仲介でインターネット販売等の事業を行う事務所を賃借しました。
賃借後にこの事務所の住所が「振り込め詐欺」の金品送付先住所として警察庁等のホームページに公開されていることを知りました。このことは、「隠れた瑕疵」にあたり、振り込め詐欺関連住所であることを説明、告知すべきであったのを怠ったとして不動産仲介会社に瑕疵担保責任、不法行為ないし債務不履行に基づいて損害賠償を請求したという事案です。
上記の内容が隠れた瑕疵と言えるのか、そしてこれは不動産会社の説明義務違反・告知義務違反となるのか!?皆さんはどうお考えでしょうか。
さて、裁判所の判断はどうだったのでしょうか。
まず、隠れた瑕疵といえるのかという点ですが、
①本件の振り込め詐欺が、テレビ、新聞などで報道されたと認めるに足る証拠がなく、警察庁ホームページ等を確認しなければ本件事務所に関連して詐欺犯罪があったと認識することは極めて困難であった。
②警察庁のホームページ等において振り込め詐欺関連住所が公表されている事実は必ずしも一般に周知されているとはいえず、ネット販売営業を営みインターネット上の情報に相当程度精通していると考えられる原告もこの事実を知らず、警察庁のホームページ等を確認することなく本件賃貸借契約を締結している。
③インターネット販売において顧客が販売業者の信用性を判断する際には、当該サイトにおいて公表されている購入者による当該業者の評価が重視され、顧客が販売業者の住所を精査したうえで購入するかどうかの判断を行うことはまれであると思われる。
④原告退去後、1カ月余りで新たな賃借人が決まっているが、振り込め詐欺関連としてネット上に出回っていたにもかかわらず、その賃料は本件賃貸借契約の月額賃料より1000円高い。
⑤転居後わずか10日あまりの間に本件住所が振り込め詐欺関連住所であることの影響がでて当月の売上高が激減したとは考え難く、その後売上高は上昇に転じていることを考えると、原告の売上高の変化と本件住所が振り込め詐欺関連住所であることの間の因果関係は乏しい
として、隠れた瑕疵には当たらないとしました。
次に説明義務違反・告知義務違反についてですが、
借主が契約時、本件住所が振り込め詐欺関連住所としてインターネット上に公開されていたことを知っていたとは認められない。事業用事務所の賃貸借契約の締結にあたっては、特段の事情がない限り、賃貸人及び賃貸借契約の仲介業者において、当該賃貸物件につき過去に犯罪に使用されたことがないかについて調査、確認すべき義務があるとは認められないとして、説明義務違反、告知義務違反も否定しました。
この事案では説明義務違反、告知義務違反はないとされましたが、振り込め詐欺の住所として広く報道され事案であれば、説明義務違反、、告知義務違反とされる可能性もありますので、注意が必要です。