FAQ
賃貸管理トラブル集
事業者に対する原状回復義務の特約は無効とできるか。
現段階でいえるのは、新築のオフィスビルの賃貸借契約に付された原状回復条項に基づき借主は、賃借当時の状態にまで原状回復してビルを返還すべき義務があると判断した判例がある。(東京高裁平成12年12月27日判決)
退去チェックの見落としによる再請求
建物の借主が8年間居住した後、期間終了で退去する事となり、退去日の夜、貸主は退去に立会い借主と原状回復の範囲を確認した。しかしその後、昼の明るいところで確認したところ(ペット禁止特約があるにもかかわらず)借主は犬を飼っていて、糞尿で畳及び(畳の下の)床が相当に汚れていると判明した。貸主は借主に対して、畳、床の補修費用を請求する事はできるのか。
特段の事情がない限り難しい。
畳の汚れは夜でも確認する事はできたといえることから、一度請求を放棄したものと評価され、特段の事情がない限り貸主の借主に対する畳の補修費用の請求は認められないと考える。一方、床の汚れについては、明渡し日に(畳の下の)床まで確認する事は困難であったといえることから、床の補修費用の請求は認められる可能性があるといえる。ただし、床を新品に取り換える費用全額の請求は認められない。
残地物の処分費
賃貸借契約終了後に建物を引き渡した借主が冷蔵庫を2個残置して出て行った。残地物の処分については元借主が同意しているので処分したいが冷蔵庫の処分には1個あたり5万円で(2個で10万円)の処分費がかかる。この処分費は貸主が負担しなければならないのか。なお、現在、元借主との連絡はつかず、連帯保証人とはつくが、処分費の負担には応じない。
本来借主の負担だが...
冷蔵庫の撤去は借主の原状回復義務の範囲内であることから、当該冷蔵庫の処分費は、本来、借主が負担しなければならないものである。ただし、借主及び連帯保証人に資金力がない場合、結果としてその処分費を貸主が負担する事になってしまうというのが実情である。
原状回復までの期間に対する請求
通常損耗についての原状回復義務を借主が負担する特約がある事業用建物賃貸借契約において、借主が原状回復を全くせずに建物を退去した場合、貸主は借主に対して、原状回復に要した期間の賃料相当額を請求する事はできるか。
義務未履行として
本件のような契約の場合、本来、借主が原状回復をした上で建物を明渡す義務を負っているともいえる。とすれば、借主が原状回復を全くせずに退去した場合、貸主において原状回復を実行するに要した(合理的な)期間については、借主が建物の明け渡し義務未履行として、賃料相当額を請求することができるとの解釈も可能と考える。
借主が債務承認後に訴訟を提起した場合
原状回復・修繕費用として60万円かかる事案で、貸主と折半の上30万円を借主負担とし、敷金(24万円)で充当しきれない6万円につき支払いがなされた。ところがその後、借主が支払い済みの金員及び敷金の返還につき訴訟を提起した。このような借主の言い分はみとめれらるのか。債務を承認したことにはならないのか。
借主が了承して支払った金員については、一般論としては債務を承認した事として、あるいは禁反言の法理に基づき容易には撤回できないということはできる。ただ本件の場合には前提である情報が不十分のまま了承したにすぎないという点で争われる余地が高い。貸主との折半であること、(全額を一方的に借主におしつけてはいないこと)内部状況がひどいということ、(故意重過失による損耗で損害賠償的側面が強いこと)、支払いに至る経緯、(借主が十分に理解したこと)などを立証することを通じ、借主の故意重過失による損耗で、借主も十分に納得して支払ったということを主張していく事になるだろう。
窓ガラスのひび割れ
借主が退去するので中を確認したところ、窓ガラスにひびが入っていた。専門家が調査したところ換気が不十分であることによる内外の温度差によって当該状況になることも考えれるという。この場合、当該ガラスの交換費用は貸主、借主のどちらが負担すべきか。
借主の行為によるひび割れであれば借主に負担を求めることができるが、その点が不明確であり、物理的にも換気の関係から生じた可能性が否定できない以上、自然損耗として貸主が原則として当該交換費用を負担するのではないか。換気が不十分であることが借主の善管注意義務違反と評価することは困難と考える。(ただし通知することなく長期間不在にし、何らかその間の対応をしていないなどの特段の事情があれば、借主側の責任も問いうる可能性は出てくる。
入居時の状況が不明な場合
オーナーチェンジがあり、借主もそのまま引き継いだ新所有者からの相談。借主が退去するので、明らかに利用者側の故意過失に基づくフローリングの傷について原状回復を求めたところ、傷の一部は入居当時からついていたもので、自分には責任がないと主張している。前所有者とは連絡が取れず、借主の主張が真実かどうかも不明である。どのように対応すべきか。
借主の入居時の状態につき資料がないことから、借主自身の主張自体の信憑性を判断するしかない。例えば通常の借主であればそのような傷があれば修繕の請求をするはずであるとか、あるいはそれを織り込み済みで賃料が周辺相場よりも安くなっていることが経験則上は考えられるが、その点何も特別な配慮がないことなどを指摘し、借主の主張は虚偽の可能性が高いことで争っていく余地もある。ただし、このあたりの主張立証は双方とも大変困難であることから、費用対効果も考慮して対応を検討すべきである。
ハウスクリーニング
契約書や重要事項説明で、ハウスクリーニングは借主負担であることを決めて説明してあればその内容に従って費用請求をしても問題ないか。
ハウスクリーニングには通常損耗の補修としての性格が含まれているため、それを借主負担とする場合には最高裁の基準に明確な合意が必要とされる。契約書や重要事項説明書に記載があるだけでは直ちに明確な合意があったとは評価されない。借主が当該負担を理解し、了解した旨の手続き面での対応が要求される。
借主側での無断改装を正当主張された場合
契約が合意解約となり、明渡しの段になって、当初タイルカーペットだったのが、借主の無断でクッションフロアーに変えていたことが判明したため、その原状回復を求めたところ、クッションフロアー化したことで物件の評価も上がり、貸主も得をしたのだから原状回復はしない。逆に当該工事費用を請求したいくらいであると反論された。どのように考えるべきか。
借主の主張は、クッションフロアー化は有益費に該当するとの主張であるかと考えられるが、クッションフロアーがタイルカーペットよりも価値が高いとは一般的に言えない。逆に汎用性がなくなることによって賃貸物件としての価値が下がると考えることもできる。したがって、有益費に該当するとはいえないし、そもそも無断改造は契約違反行為に当たることから、現状復帰、損害賠償請求が可能である。借主の主張は根拠がないと考える。